茶の姿

この一席には結婚したばかりの一組の夫婦と、親子の参加がありました。
私の師は若い夫婦を祝い、二人の為に茶を淹れました。
二人の茶杯を持つ手が少し震えているのがわかりました。
手が震えているよりも、溢れそうになってしまう程心が震えているのだとわかりました。
お嫁さんは目を閉じたままでした。
いつまでもいつまでもその少し大きめの茶杯の香りを香って、...
離しませんでした。
きっと目を開けてしまったら、
茶杯で顔を隠さなければ、
こぼれて仕方なくなってしまうのだとわかりました。

一つの茶壺から出された二杯だけの茶湯は二人を祝福しました。

もう一煎の茶湯は、老師が淹れた茶を、親子の娘さんに渡しました。
「父と母にどうぞ!と奉茶して下さいね。」

娘さんは母の目を見て、「どうぞ!」と明るい声で茶杯を両手で渡しました。
母も娘の目を見て「ありがとっ!」と言いました。

ふたつの形式ではない心の茶を目の当たりにしました。

茶人になる事は幸せな事です。
お茶を淹れている自分も幸せだし、人をも幸せに出来るのです。

写真 ギャラリーYDS店主高橋周也さん

この一席の茶
2013年 春 易武正山野生生普洱茶
陳遠號